ベビーフェイスと甘い嘘

「だけど…………」


「私は、九嶋くんの前では泣けないの……九嶋くんもそうでしょう?」


私と九嶋くんは似ている。


だから、お互いに隠していても本音が分かってしまう。


でも本音を分かっていても、弱い部分もさらけ出せても、過去の苦しみや心の傷は九嶋くんと一緒にいてもきっと治せない。


私が……私達がお互いに必要としていたのは、過去の傷を舐め合う癒しではなくて、傷に触れる為の決心だ。


直喜は、傷に触れる勇気をくれた。


涙で溺れた心を引き上げてくれた。



私が本当に欲しかったのは、甘えさせてくれる優しさじゃなくて、自分で立ち上がれる強さだった。



『傷は"自分で"治そうとしないと塞がらないでしょ』


直喜は、私の強さを信じてくれた。


だから私は、直喜の前では弱い自分を見せる事ができた。


私を見てくれて、分かってくれて、必要としてくれた人なら他にもいるけれど、


現状を変える為の勇気をくれたのは、直喜だけだった。


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