ベビーフェイスと甘い嘘
「……何で"お気に入り"を歌って欲しいって思ったのかは、もう言わなくてもちゃんと分かるよね?」
「……うん」
一気に頬の辺りが熱くなる。
(たぶん)真っ赤になってうつ向いた私を見て、九嶋くんはニヤリとからかうように笑った。
「あーあ……しあわせそうな顔しちゃってさ。ほんと、やってらんない」
熱くなった頬を押さえながら、『ごめんね』と言いかけて、慌てて口をつぐんだ。
それだけは言っちゃいけない言葉だって、さっき思ったばっかりなのに……。
焦る気持ちを悟られないように、他の話題を探す。
「じゃあ……私が熱を出して、九嶋くんの家で休ませてもらった時に歌ってくれた歌は?」
これも、傷ついた心を癒してくれた大切な歌だったから、ずっと機会があったら聞こうと思っていた。
「『ムーンリバー』。これも映画の曲だけど……タイトルだけ言っても分かんない?……ま、これはもういいでしょ」
だけど、九嶋くんはそう言ってあっさりと話を止めてしまった。
……たぶん、特別な想いを込めて歌ってくれたのだろう。何となく、そんな気がした。
だけどもう、私はその想いを聞く事はできない。
「『ムーンリバー』ね、分かった。ありがとう」
私もそれだけを伝えて、興味の無いふりをして……後は何も聞かなかった。