ベビーフェイスと甘い嘘
***
『シンカワ』さんとして働き始めてほぼひと月ーー
最初は、私の名字が変わった事なんて誰も気がつかないんじゃないかと思っていたのに、お客様の間で思っていたよりも話題になっていて、驚いてしまった。
「えー!カシワヤさん、結婚しちゃったの?!残念ー!!」
と、爽やかセクハラペラペラ好青年に言われ、
「おめでとうございます」
と、毎朝コーヒーを買いに立ち寄る常連客の女性にウフフと穏やかな笑顔で祝福され、
「えー!家の息子の嫁にどうかしら?って思ってたのに!」
と、コロッケおばちゃんの加賀谷さんに止めを刺された。
「…………あの……言いにくいんですけど……」
その度に、私はいちいち訂正しなければならず、まず結婚していた事に驚かれ、さらに結婚ではなく離婚をして、今は5歳の子どもがいるシングルマザーだと言うとさらに驚かれ、『何か、ごめんね……』と、謝られる……
そんな毎日を繰り返していた。
私の事情を知っている初花ちゃんや、店長や、九嶋くんは、私のそんなやり取りを聞くたびに吹き出しそうになるのを堪えながら仕事をしていた。