ベビーフェイスと甘い嘘
「お疲れ様でした。……まぁ、でも意外でした。茜さん、もっと適当に誤魔化すかと思ってたのに」



『じゃあ、色々と落ち着いたら、息子とお見合いしてみない?』と食い下がる加賀谷さんを、やっとのことで見送ってぐったりとしていた私に、初花ちゃんがクスクスと笑いながら話しかけてきた。



「……もういい加減、素直に生きようかと思って」



そう言うと、後ろでウハッと吹き出すように笑う声が聞こえた。



振り返ってギリッと睨み付けると、その男は、ニヤニヤ笑いを隠す事なく「いや、いい心がけだなと思って。その調子で接客して下さいね、"副店長"」と言い放った。



普段は敬語なんて使わないくせに、こういう時だけ丁寧に話すのが腹立たしい。



「……まだ"副店長"じゃないでしょ」



「"今は、まだ"だろ。今から自覚を持って仕事してもらわないと困るんだよ。自分から志願したくせに。社員登用の試験に受かったら、即、柏……じゃなかった。新川さんは副店長になるんだからな」



「了解しました。"店長"様」



噛みついた途端に乱暴になった口調に対抗してわざとらしく丁寧に言うと、今度はフッと口の端だけ上げてバカにしたように笑われた。



その無駄に整った唇をグニッと両手で掴んで、左右に広げてやりたい衝動を押さえながら、私は引き攣った笑顔を浮かべた。



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