切ないの欠片~無意識のため息~


 そんな私が一つだけ、心を熱くして目頭が潤んでくるのを感じる瞬間が、あの人なのだ。

 彼は、転校生だった。

 去年の2学期、地図でしかみたことがないほど遠い場所から引っ越してきて、私と同じクラスに入った男の子。

 見た目は爽やかで、笑顔が可愛い。自分から必死で溶け込もうとしなくても周囲が放置しないような人懐っこい性格。彼は当然のように、人気者になった。

 私はいつも端から見ていただけ。

 体育祭も文化祭も、校外学習もテスト期間も。ずっと気になるあの子を見ていた。気づかれないように、そうっと。

 おお~、あんな顔もするんだ、格好いいなあ!って、眺めていた。

 運動も出来る彼にはすぐに彼女が出来た。私はそれもじっとみていただけだった。ちょっと・・・いや、正直に言えばかなりショックを受けたものだけれど、それも当然か、仕方ないよねって諦めがついてしまう。

 そんな格好よさだったわけだ。

 彼らはいつの間にか付き合いだし、3,4つの季節を越えてから別れることにしたらしかった。それはいつも帰り道が同じなクラスメイトからの情報で知った。彼女の方が女友達に囲まれて声高に彼への不満や恨みごとをぶつけていたのを聞いてしまったことがある。

 そして、彼にはまた別の彼女が。

 今度のはクラブの後輩のようで、今のところ二人は幸せそうで、色んな場所で一緒にいるのを見た。

 ・・・ああ、と私はため息をついてぶらぶらを歩くのだ。


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