したくてするのは恋じゃない


ちょ、ちょっと…今の…言われ放題じゃない?

剣吾が私を好きだと言う。
いきなり。

そうだ、キス。あんな…色気だだ漏れの…。濃いやつ…。
やられた…、やり逃げされてるじゃない。言い回し、下品?

わざとハッキリ言わないつもりだったのだろうけど、マスターは私を好きなんじゃないかと言う事。

…焦るなって言った。
…逃げるな、とも。

仲良しこよしの、両方お断りは無しって事、かな…。

まだ、マスターの気持ちは聞いてない…。


…もぅ。身体は勝手に火照ってるし、頭は爆発しそうだし…。

明日から週明けだというのに…実に悩ましい。




「先輩?絵里子先輩!」

「はっ、な、何?」

今は休憩中。自販機のある休憩室。

「熱でもあるんですか?
それとも、久方振りに訪れた恋の悩みですか?」

クイクイッと肘で突いてくる。

「ブーーッ」

「キャ…もぉー、絵里子先輩ぃ、汚いですぅ」

ポーチから取り出したティッシュで汚してしまった床を拭く。

こんな小娘に見破られるとは…なんて未熟者な私…。

「ごめんごめん。ちょっと熱っぽい感じなのよね」

「ぇええ?日頃の気合いの話はどうしたんですか?
休みにかまけて不摂生して、月曜日に体調不良なんて、社会人として駄目だって、いつも言ってたじゃないですか。
私、何度も何度も叱られてますよ?
だから、駄目じゃないですか先輩」

「…はい。おっしゃる通りでございます。
ぐうの音もでません。
…以後気をつけます」

「気をつけてくださいよ?
健康優良児の先輩が休む事にでもなったら…私、私が困るじゃないですか、仕事増えて」

「ハハハ…以後気をつけます」

「よろしい!ふふふ」

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