したくてするのは恋じゃない


「特別扱い?」

「ああ。メニューなんて、特別扱いそのものだろ?
我が儘を聞いて貰ってるのか、あっちからすすんでなのかは知らないけど。他の人には無いサービスだと思ったけど?」

無意識は怖い。罪だ。親切にされてるからどっぷりマスターの好意に甘えてた。自覚は多少あるつもりだ。

「余程なんだと思った。
だから、妙に急に焦った。
このモヤモヤしたモンはなんなんだと思った。
意識するまで気がつかなかった。
一緒に居ても気ぃ遣わないし、ベタベタしないし、話しても嘘が無いから、なんていうか、正直に話せるんだよな。
俺は、きっと、あの頃からずっと…、絵里子の事が好きだったんだ。
こう…苛つくような…、モヤモヤするモノは、ヤキモチだなきっと。
…認めたら、…自覚したら、スッキリしたんだ。
間違いない。
だから、焦ったんだ。
昨日…、マスターの誕生日、食事に行ったって耳にした。なんか進展したんじゃないかって」

「…剣吾、どうして知ってるの?」

「“お嬢様方”は、おしゃべりだからな。
小声のつもりで潜めても、声はそのままだし。自然に耳に入る。
話したがるし、噂好きだろ?
ある事無い事、ネットワークは広い。嫉妬が入ってる分、怖いぜ?
ま、そういう事だ。
俺は俺の事しか言わない。
とにかく、絵里子…、好きだ」

そう言って立ち上がると、上着をまたきちんと直し、コーヒーを一気に飲み干した。

「旨いな。有難う、ご馳走様。
…今夜は帰る。
言っとくが、仕事以外で女の部屋に邪魔したのは今日が初めてだ。
入っといて何だが、簡単に男を部屋に入れては駄目だ。…無防備過ぎるだろ。…ったく。
じゃあな…っと、ああ、あと、ひとつ。
俺は焦ったが、絵里子は焦るな。解ったか?
それから、もひとつ。
…逃げんなよ。
んじゃあな」

「えっ?あっ…」

え?

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