秋麗パラドックス
「佐紀、結婚したんだね」
「あ、うん。そうなの。結婚式は挙げてないんだけどね」
「え、そうなの?」
佐紀は事あるごとに言っていた気がする。
『真っ白い綺麗なドレスを着て、結婚式したい!』と。
「お金勿体ないし、生活するだけでギリギリだからね。夢だったけど、仕方ないから諦めたの」
『現実はうまくいかないね』とは言いながらも幸せそうな佐紀の表情を見ると、羨ましく思えてきた。
そう、現実はうまくはいかない。
この学校に、親の庇護下にあって制服を着ていた頃には知りもしなかった。
可能なこと不可能ことお構いなしに、“将来”と呼んで、夢を見た。
『叶いはしないだろう』と言っていても、心のどこかでは『叶うんじゃないか』と夢を見て。こうして今、現実に打ちひしがれている。
それが、私だった。
「ちなみに、奈瑠は?」
「見ての通り独身だよ。好き勝手してる」
「そっか。まあ、一人を楽しんでから考えても遅くないよ」
そんなフォローをしてくれるけれど、そんなフォローはいらない。
『そうかなあ』と適当に笑って、私は『じゃあまた後でね』と言って小春の元に戻る。