秋麗パラドックス
小春だけじゃない。
そこには、たくさんの懐かしい顔があって。
『菊池じゃん!』と声を掛けられては、『久しぶり』とみんなに同じ言葉をかけていく。
私もそうだけど、みんな成人を迎え、それなりの経験をしてきたからなのか、顔付きが変わっていた。
やんちゃしていた子も、落ち着いていて、今ではまじめに働いているよう。
もう親になってる子もいるみたいで、それだけの時が流れたんだと思った。
小春が他の子たちに呼ばれて『ちょっと行ってくる』と言って私から離れた。
どうしようかな、なんて思っていれば、『奈瑠!?』と言う声がする。
そちらの方に向けば、懐かしい顔があった。
「佐紀!久しぶりだね」
「小春の隣にいるからまさかとは思ったけど、まさか奈瑠が来るなんて!本当に久しぶりだね!」
卒業以来のクラスメイト達ばかりで、彼女もその中の一人だ。
こうしてみんなで騒ぐことが大好きな幹事なため、今までも何度か同窓会と言う名の飲み会が開かれていた。
けれど私は参加することはなかった。
仕事が忙しいと言うこともあるし、何より、行きたくなかったから。
そんな彼女の左手薬指には、キラリと輝くリングが輝いていた。
何ら驚くことではない。
晩婚化が進んだからと言って、私たちの歳はもう結婚適齢期なのだから。