幽霊の影
午後。


昼食を摂り、アップルパイの下準備を終えると、急にどっぷりとした疲労感に襲われた。


頭の中に濃霧が立ち込めたように、思考がぼんやりとする。



ティーバッグのハーブティーを淹れ、少し眠ろうかどうか迷いながら、リビングの大窓の前に佇んだ。


どんよりと曇った空や、その下に建ち並ぶビルを見下ろしつつ、カップで手を温める。


鮮やかに紅葉した街路樹、行き交う車や通行人

その中に、一目でそうとわかる高級ブランドのランドセルを背負った瑛梨奈の後ろ姿もある。



――もうそんな時間。


オーブンに予熱をかけないと。



キッチンに向かおうとして、足を止めた。



瑛梨奈の「後ろ姿」。


つまり、このマンションの方に歩いて来ているわけではないのだ。


寄り道でもするつもりだろうか。
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