幽霊の影
「ママ!」


「……えっ?」



悪夢の映像が消え、かわってテーブルに並ぶ狐色のトーストやベーコンエッグ、サラダが視界を占領した。



朝の食卓。


向かいの席から、怪訝な顔の瑛梨奈がこちらを見つめている。


「大丈夫?ぼーっとしちゃって」


「うん……何でもない、大丈夫。

どうしたの?」


「今日、塾もテニスクラブも無いから、またママのお菓子食べたいなって思ったんだけど」


「あぁ、そっか。そうだね……」


「具合でも悪いの?」



悩んでいる様子を瑛梨奈に悟られてはいけない。


「ううん。ほんと大丈夫。

ちょっと寝不足なだけ。


お菓子、今日は何がいい?」


「アップルパイ!


でも無理しないでね。

眠くなったらお昼寝してていいよ」



瑛梨奈の前では、余裕に満ちた綺麗で模範的な女性でありたい。


私は精一杯、笑顔を繕った。



「ありがとう。アップルパイね」
< 29 / 58 >

この作品をシェア

pagetop