狐火 ゆらり
 さわさわとススキが揺れ、ススキの尾に紛れて揺れる尻尾が、徐々に近づいてくる。

 不意に雲が割れ、さぁっと金色の光が差した。
 一瞬びく、と尻尾が皆引っ込んだ。

 が、ススキがわさわさわさ、と一直線に揺れたかと思うと、簀子のすぐ前で静かになる。

 俺は三方を差し出してやった。
 ススキの間から、にょ、と小さな手が突き出て、器用に爪に団子を一つ引っ掛けた。

 わさわさ、とススキが揺れる。
 また、にょ、と手が出る。

 わさわさ
 にょ
 わさわさ
 にょ

 中には手が小さすぎて、両手を差し出し肉球で挟んで持っていく奴もいる。

 わさわさ
 にょ
 わさわさ
 にょ

「ここに来れば、寂しくないな」

 俺は上手く団子を取れないで手こずっている手に、一つ乗せてやりながら呟いた。

「お前のような者がいるから、この祠も朽ちずにおられるのだ」

 青年の声は月の光に溶けて行く。
 煌々と輝く望月は、ススキ野原を金色に照らす。

 団子がなくなった頃には、金色の海の中に、また嬉しそうに尻尾が揺れているのだろう。



*****終わり*****

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