狐火 ゆらり
「ここもそのうち、いろんなものが建つのだろうな」

 青年が、眼前に広がるススキ野原を眺めながら言う。
 今しも姿を消そうとしている僅かな夕日が照らす野っ原を、無数の赤蜻蛉が飛んで行く。
 夕日が落ちれば、あっという間に闇が落ちるだろう。

 風に揺れるススキに紛れて、ちらり、ちらりと尻尾が揺れる。
 闇が落ちれば、ゆらり、ゆらりと狐火が躍るだろう。

「ここは、おいそれと手出し出来ねぇだろうよ」

 酒を受けながら、俺は独り言のように言う。
 青年は銚子を傾け酒を注ぎながら、ちらりと俺を見た。
 白い髪がさらりと流れ、金色の目が俺を捉える。

「あといかほど、ここで月を愛でられような」

 月が空に昇るにつれて、据えられた三方に、ぽ、ぽ、と白い団子が増えて行く。
 俺は杯に口をつけた。

 ここで月見をするようになって、どれぐらい経つのだろう。
 俺たちにとって、刻などないも同然だ。
< 3 / 5 >

この作品をシェア

pagetop