やさしい恋のはじめかた
4.本音を言い合うお年頃
 
話したいことがある、と大海と連絡を取ったのは、それからすぐのことだった。

桜汰くんに縋って甘えさせてもらって数日、その週の週末に、私は大海を呼び出した。

多忙を極める大海のことだから、忙しくて捕まえられないかと思っていたけれど、どうにか都合をつけてくれたらしく、大海と私は今、終業後のオフィスに二人きりで静かに向き合っている。


「……」

「……」


だけど、私たちの間には沈黙が流れるだけで、一秒が何分にも感じられるような重厚な空気が息苦しさを植え付けていく。

私が呼び出したんだから何か言わなきゃ。

そうは思うけれど、いざ大海と正面から向き合うと自分で思っていた以上に緊張しているらしく、口は開くものの声が出なかった。


「……ごめんな、里歩子。不安にさせて」


そんな空気を破ったのは大海だった。

不安、という言葉からすぐに分かったのは、数日前から社内を賑わせている、上谷部長の娘さんである凛子さんからの逆プロポーズの噂。

表立ってではないけれど、その渦中に私もいるから、大海はそれを心配しているらしい。


もしかしたら大海は、そのことで私が呼び出したんだと思っているのかもしれない。

でも、私の目的はもっとほかのところにある。

大海と本音でぶつかり合わなきゃどこにも進めないことにようやく気づくことができた--だから私は、大海と向き合うことができている。


「……あのね、そうじゃないの」


ゆるゆると首を振り、大海を見つめる。
 
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