私を本気にさせないで
悔しくて拳をギュッと握りしめてしまう。

せっかく距離が縮まってきたというのに、なにやっているんだよ。
もう絶対に彼女を傷つけたくない。……彼女を傷つけた元彼が許せない。
そう思っていたのに、結局彼女を傷つけてしまったのは、俺じゃないか。

「最低だな」

乾いた笑いが漏れてしまう。

誤解させたままでいいわけない。
そう思うのに、足が動かない。

だって今の彼女に何を言っても、無意味な気がして仕方ないから……。
いくら真実を言ったところで、彼女の誤解は解けず、ますます彼女を傷つけてしまうかもしれない。

それだけは絶対に嫌だ。……でも、このままでいいのか?

さっきの彼女の言葉が脳裏をよぎる。
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