放課後コイ綴り




「相原は寒がりなんだから、気をつけろ」

「う、うん」

「……風邪、引くなよ」



その瞬間、彼の口元がわずかに緩む。

困ったように、恥ずかしそうに、気難しそうに。

その全てを兼ね備えた表情をしていて。



めったに笑わない一条くんの笑顔に心臓が痛いほど、どくどくと鼓動が響く。

それが、とても心地いい。



君のそういうところ、好きだなぁ。



表情は変わらなくたってこわいわけじゃなく、人をよく見ていてくれる。

わたしが焦ってミスしたって文句も言わず、ばかになんてしないでフォローしてくれる。



そんな君が、わたしは大好き。

……大好きだった。



カイロのぬくもりに、目元があつくなる。

胸が切なく軋む。










わたし、相原 ふみ(あいはら ふみ)。

彼、一条 要(いちじょう かなめ)。

北冠高校のふたりきりの文芸部。



わたしたちは最後の部員。



卒業まで、残された時間はあと3ヶ月。






< 5 / 85 >

この作品をシェア

pagetop