放課後コイ綴り




最後の一文字まで読んで、私はああそうなんだ、と思う。

わかっていた。知っていた。

だけど彼は本当に作家として生きていて、こうして解説なんてものを依頼されるようになって、すごい人。



なぜふたつの名前で活動しているのかは知らないけど、どちらの彼も、どんな彼も、生み出す言葉が……好きだから。

もう、なんだっていい。いいんだ。



それにしても、彼はなにを考えながらこの解説を書いたのかな。

当事者のわたしたちにしてみれば、この『放課後コイ綴り』は自分たちのことだってよくわかる。

……ううん、それだけじゃない。



そもそも一条くんが彩先輩から、モデルにすると知らされていないはずがなかった。

繋がりがあったと言うのに彩先輩が告げないなんてありえないし、勝手に小説に使うなんてマナー違反だもんね。



ひとり納得し、こっくりと頷く。

触れたままだった書籍の上の掌を滑らせて撫でる。



わたしたちの、卒業式の日。

改行して、一文字分だけ下がった頭文字。

すべての部誌を見て、わたしの〝すき〟と一条くんの〝おれも〟に気づいた。



彼の解説をきっかけに、あの日を指先でなぞる。

まるでこんなふうに、と解説の頭文字を声に乗せる。






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