無口なセンパイに恋した仔羊
「どうしたの、美鈴?」

そう問いかけたのは、綾人さん。

私は、紙切れをペンケースに無造作にしまい込むと、何事もなかったように、笑顔で言った。

「何でもありません。社に戻りましょう」

…、ちょっと元気が空回りし過ぎたのか、綾人さんは、疑いの目で私を見たが、私は知らん顔で突き通した。

今日はそのせいか、どこか、仕事に集中できていなかったのかもしれない。

…定時を知らせる音楽が、オフィス内に鳴り響く。

それでも、私たちは手を止める事はない。

「…新垣」
「…はい?」

仕事中、突然声を掛けてきた琉偉さん。

「…お前、もう帰れ」
「「…えっ⁈」」

その言葉に、私も傍にいた綾人さんも、驚いた。

「…仕事に集中できない奴はいらない」

「…琉偉、美鈴、仕事頑張ってんじゃねぇか、何言ってるんだよ?」

綾人さんが、援護射撃してくれた。

「…あの、でも「言い訳なんかいらない。とにかく帰れ」

私に有無を言わせない。

「琉偉!」
綾人さんが怒り出し、私は慌ててそれを止めた。

「…わかりました。今日は、帰ります」

涙目でそう言って、頭を下げると、逃げるように、部屋を出た。
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