恋愛格差
きっと私が優を救ってあげなかったからだ。
身の程もわきまえず、一丁前に嫉妬なんかして、優を放り出した。
優が弱って初めて対等になれた気がした。
そんな私への罰だ。
こんなときに冷静に反省が出来てしまって、私は大粒の涙をこぼした。涙は目尻から床に何度も落ちた。
「たまんねぇな……」
目の前の男は興奮してきたのか息を荒くする。
私は諦めて目をつむった。
優だと思えば良い。
優に犯されて殺されるんだ。
どうせなら耳も塞いでくれたらいいのに……
私の両太股に男の分厚い手がかけられた瞬間、空気の流れが変わった。
カチャ
男は背後から聞こえた音に反応した。
「と、……透子!」
それはよく知った声。
すぐる!
ホッとしたと同時に嫌な予感がした。
男が持っていたのは小振りのジャックナイフ。
逃げて!そんな言葉は「うーうー!」としかならない。
そこで両手が空いたことに気付き、シャツを口から出す。
私の上から立ち上がろうとした男の腰に必死に両手でしがみついた。
「逃げて!」
「離せ!」
男は右手のナイフを振り回した。
一瞬、目の前を掠った。
「痛っ!」
思わず目をつむって、男から手が離れてしまった。
私の右目とそれを覆った手が血で濡れたのがわかった。
「透子!」
優が近付いてくる。
ダメだよ。ナイフ持ってるのに……「逃げてよう……」
泣きながらそれでも男を引き留めようとズボンに手を伸ばす。
「おまえ……よくも透子を……」
今までで見たことない恐ろしい表情をした優は男の右側から体当たりした。
「だれか!警察!警察呼んでっっ!強盗だっ!!早く!
早くしてください!」
言いながら男の右手を拘束して、それを捻りあげた。
「いてぇー!離せ!」
暴れる男に翻弄されつつも手は離していない。
「うるせぇ!チクショウ!この手、死んでも離さねえからな!」
私は慌てて110番に電話して、かつ窓を開けて「助けて!」と大声を出した。
会ったこともないお隣さんや、近所の人が廊下に集まってきて、ようやくパトカーのサイレンが聞こえた。
優はその間、男の左手で殴られようが蹴飛ばされようが、
ナイフを持った男の右手をお腹に抱えて離さなかった。
ずっと「透子!大丈夫か?もうすぐだからな。」とわたしを励ましながら。
私はただ震えながら、近くにあった布団たたきをそいつに向けて構えてただけだった。