恋愛格差

その週はほとんど仕事にならなかった。
公私混同もいいとこ。こんな自分は大嫌い。

なのにいつの時間も頭の中を占めているのは優だった。

優が仕事をやめる。
そしてどこかで新生活を始めるつもり。

一切絶ち切るつもりのそのしがらみの中に、私も入っているのだろうか。

考えても考えてもわからないし、悲しくなってくる。


何にも言わないと思っていたけど、言えなかった?
そしてそんな優を見捨てた……

ほんの数週間前は裏切られた気持ちでいっぱいだったのに
今はそうではないのかも、なんて思っている自分がいる。

もちろん、これは私の心の奥底にある願望も大いに影響しているのだろう。

『大事にされてたわよ、あなた』

幸代さんの言葉に後押しされた微かな希望。

まだ間に合うだろうか。

そんなことを思い始めた水曜の夜。
次の日の仕事は異様に長く感じた。

一日も待ってられない。

諦めた優との対話をもう一度しなくちゃ。
私は先へも後にも動けない。

そんな気持ちは焦りに変わった。


それでも無事に仕事が終わり、なんなく会社を出ることができた。

社のビルを出るとすぐスマホを手にする。

久しぶりの『吉岡 優』

タップして電話を掛けた。

すぐにアナウンスが流れる。

『お客様のお掛けになった番号は電波の届かないところにおられるか、電源が入っておりません……』

想定内だ。仕事途中かもしれないし。

じゃあメール。

『話したいことがあるから返信ください。
会社の前のカフェで待っています。』

よし。

以前のままの優なら
女の子を閉店までおよそ四時間も待たせないだろう。

2度目の待ち伏せ場所、カフェに真っ直ぐ向かった。





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