異聞三國志
彼らはまず、麓の村に下りて様子を探ろうとした。

幸いに一応薬学部の学生であった士郎だったので、山に入って薬草を見つけた際のスケッチ用として、ノートと筆記用具、薬草事典などは持って来ていた。あとは携帯電話やゲーム機なんかであったが。

中国の人とコミュニケーションをとる場合やはり筆談の方が役にたつというのは、ゲームを通して大の三國志ファンとなっていた士郎が将来中国へ行ってみたいと思っていたので、知識として知っていたのである。

だから少し士郎は興奮していた。

“田舎ならば漢中とか、五丈原の近くなんかがいいな”
などと・・・。


麓の村にたどり着いた二人であったが、なかなか人は見つからない。

やっと一人の農夫に出会ったので、筆談を試みた。

「何処、名前、場所」
とか書いてみた。

農夫は字はわからないらしく、首を振っていた。それよりも鉛筆を不思議そうに眺めていた。あとは身体全体をなめまわすように見られた。何人かの農夫に同様にしたが、反応は同じであった。


「中国っていくら田舎でもこんなに字を知らない人多かったかな?」


「そんなことないと思うけど・・・。」


突然、遠くから馬の足音が聞こえてきた。

「な、何だ。」

甲冑姿の武将であった。


「す、すげえ。何か昔の、三國志のドラマかなんかのロケでもやってるのかな?前にドラマであんな甲冑見たよ。中国製作の。」


士郎は興奮していた。理沙子は何かおかしいと感じていたが・・・。


「引っ立てぃ!」


突然二人は縄をかけられた。


「な、何だよ、おい!」

「士郎ちゃん。」

当然通じるわけもなく、二人はしばられて、馬に乗せられて、つれていかれた。


“どこへ連れていかれるのかな。”


さすがの士郎も心細くなってきた。


街が見えてきた・・・。


ただ・・・。


高層建築などはなく、立派なのは城壁だけであった。


途中に石碑で


「到 漢中」


の文字が・・・。


“か、漢中。もしや・・・。”


士郎には戦慄の予感が全身を走った・・・。
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