彼女が虹を見たがる理由
☆☆☆

俺くらいの年齢で素直に両親を尊敬していると言えるヤツは少なかった。

心の中では尊敬していたり大好きな存在だけれど、自分はもう子供じゃないという思いが両親への思いを遮断してしまうらしかった。

でも、俺はそんな事はなかった。両親の事を俺は誰よりも尊敬している。

夕飯の支度を手伝い、父さんにビールを出し、久しぶりに家族3人で食卓を囲んだ。

「今の事件はうまく行きそうなんだろ?」

食事の途中で俺はそう聞いた。

父さんはアルコールでほんのり赤くなった顔で頷く。

「あぁ。ひき逃げ事件は解決だ」

上機嫌でそう言うと父さんに対し「ご飯中にそんな話……」と母さんは顔をしかめる。

「よかった」

俺は父さんへ向けてほほ笑んだ。

一か月前に俺の通っている若葉高校の校門前でひき逃げ事件が発生した。

被害者は若い女性で夜中にコンビニまで買い物に行き、その帰りにバイクでひかれた。

しかし女性は即死じゃなかったのだ。

ひかれて数時間は動けないままその場で生きていた。

もしバイクの運転手が女性を助けていれば命を落とす事はなかったのだ。
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