温もりを抱きしめて【完】
「着いたぞ」


沈黙が続いていた車内に、要さんの声が響いて、窓の外を見ていた私はパッと彼の方を向いた。

車が止まると、要さんは自分でドアを開けて出ていく。

二宮さんが開けてくれたドアから、私も慌てて車外へ出ると、そこで言葉を失った。


行き交う家族連れやカップルたち。

彼らが入っていく門の看板には、『◯✖️フラワーパーク』と書かれていた。

いつかの放課後の図書館で、私が眺めていた雑誌に載っていた…あのフラワーパークだ。


「要さん、ココ……」


隣にやってきた彼を見上げると、「ガーベラ、今が見頃らしいぜ」と言って歩き出す要さんさん。

その後ろ姿を見つめながら、私の胸は熱くなった。


ーーー覚えてくれてたんだ。


立ち止まったままの私の側に、二宮さんが並ぶ。


「最近、伽耶様が元気がない様子を心配されてたんだと思いますよ」


その言葉を聞いて、私は泣きたくなった。

胸がギュッと締め付けられて、今すぐにでも泣いてしまいそうだった。


少し前を歩いていた要さんが振り返る。

立ち止まったままの私に「行くぞ」と掛けられた声と、二宮さんの「いってらっしゃいませ」と言う声にようやく私の足は動き出した。



もう十分だ。



そう思った。



だから今日だけは、今だけは。

要さんの側で笑っていようと、そう思った。
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