控え目に甘く、想いは直線的
私の採用を決めたのも、人事部配属を決めたのもきっと部長。

何を考えての決断だったのかは分からないけど、私がここにいられることは部長のおかげだ。だから、部長の指示や要求には応えるようにしなくてはならない。

しかし、どんな人か全く分からない。隙がないように見える。仕事においても、プライベートにおいても完璧なのかな。


「あれ? ここの別紙の最後が抜けてますよ」


「ん? ああ、じゃあ入れておいて」


大石さんに指摘されるものの、部長は冷静に答える。二人の間には揺るぎない信頼関係があるように思える。今のように、何か抜けた部分があっても、大石さんがそれをカバーしてきたのかもしれない。

せっかく採用してもらったのだから、私も信頼してもらえるよう頑張ろう。


「野々宮さん、悪いんだけど、これを20部コピーしてきて、ここに綴じ直してもらえる?」


「はい、分かりました」


大石さんから抜けているという1枚を受け取り、隣の部屋でコピーをする。

簡単なことだけど、まだ入ったばかりの私でも役に立てるのが嬉しくて口元が緩んだ。
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