雨も好き。
そこは、小洒落た小さなカフェだった。

「ここね、4月にオープンしたばかりなんだよ。初めてきたけど、なかなかいい店だね。」

“初めて”という言葉が、胸に刺さる。

俺はこいつの“初めて”を幾つ貰ったのだろうか。

別れた今でなお、それを貰ってしまった。

「あ、俺今日、金持ってねぇわ。」

「そんなの見ればわかる。そしてケータイすら置いてきたんでしょう。いいよ、出世払いで。」

春花の言ったとおりだ。そして、今になってケータイを置いてきたことを知った。

俺の今の持ち物は、音楽プレーヤーとヘッドホンのみだ。

出世払いって。これからも、春花の傍に居ていいことを保証された気がした。
ごめんな、喜んでもいいか?
それくらいは、許されるのだろうか。
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