バレンタイン狂詩曲(ラプソディー) 〜キスより甘くささやいて 番外編〜
シャワーから出て、髪を拭きながら、リビングに入ると、美咲がミネラルウォーターを渡してくれる。
今日の朝食は、アジの塩焼きに納豆とひじきの煮物にいんげんの胡麻和え、味噌汁にご飯。美咲のメシは美味い。家庭料理のお手本みたいだ。真面目に食事は人間の基本。と言って、大切にしているのがわかる。美咲は真面目すぎるほど、真面目だ。そこもまた気に入ってるけど…
美咲がgâteauで仕事を始めたのは、俺が美咲と一緒にいたくて無理やり、アルバイトに誘ったからだけど、ケーキの事はなにもしらないはずだった。(本当の美咲の職業は看護師だ。)
それでも、店の人として店頭に立つと決まってから、お菓子の歴史について調べてきていて、店に勤めてからは並んでいるケーキのひとつひとつについての特徴を俺に聞いて覚えながら、接客した。もちろん、覚えもいい。
お客様にはくっきりとした営業スマイルを見せ、隙がない感じだけど、お菓子を選ぶお客様が迷っているのをみると、途端に普段の美咲の顔になって、一緒に迷ったりして、柔らかい笑顔になるので、客が男の場合は要注意だ。美咲の笑顔に見とれるヤツも結構いるからだ。オーナーはそれをわかっていて、男の客を美咲につける。確かにリピーターになる可能性も大いにあるけど、俺は気に入らない。オーナーになんで男の客をワザとつけるのか一応聞くと、「男だったら、僕だって、美咲ちゃんに接客してほしいし、客単価も結構いいよ。美咲ちゃんにニッコリされると、たくさん買っちゃうんだと思う。」とシレッとしている。俺は額のシワが深くなるのがわかるけど、売り上げを伸ばしているので言い返すわけにもいかず、美咲を厨房に呼びつけ、必要のない雑用をさせて、気を静めてから、また、ケーキを作った。
でも、今は、これ見よがしに美咲に誰が見てもはっきりわかるダイヤのエンゲージリング(去年のクリスマスに贈ったもの。)をさせているので、少し安心だ。
オーナーがため息をついて、仕事中は外してくれないかな?と冗談めかして俺に聞いてきたけど、俺は首を縦に振らなかった。

一緒に出勤する時、玄関で靴を履いてから、少し長いくちづけを交わす。美咲がチョット声を漏らすまで、美咲の歯磨き後のミントの香りを味わってから先に玄関を出て、車を回す。美咲は初めのうち、
「颯太、一緒に出かけるのに、なんで行ってらっしゃいのキスをするかな?」と上気した顔をしかめて聞きてきたけど、その答えはキスをもう1回って結果になるので、諦めて、おとなしくキスを受けてから、出勤するのが習慣になって、口紅はgâteauについてからつけてるみたいだ。gâteauについて車から降ろす前にも短くキスをしてから鍵を開けて降ろすから…
そうせずにはいられないので仕方ないだろ。
俺は美咲にぞっこんだ。


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