白衣の王子に迫られました。

朝の採血結果はまだ出ない。

私は夜勤のナースの富田さんを見付けて声を掛ける。

「おはようございます。なにか変わりありました?」

「おはようございます、穂高先生。特にありませんでしたよ」

 富田さんは私と同い年のママさんナース。

旦那さんの両親に子供さんを預けてバリバリ働くキャリアウーマンだ。

私は彼女の生き方を理想としていて、は密かな憧れを抱いている。

「そうでしたか、お疲れ様でした」

「いえいえー、あ。そういえば、聞きましたよ~」

 ほくほくの笑顔で何を言うのかと思えば、嘘彼氏の話題だ。

私はがっくりと肩を落とす。

春野さんはいったいどれだけ言いふらしたんだろう。

「……あのですね、富田さん。今後、別れたりとかあるかもしれないし、出来る限り内密に、そっとしておいてくれたら助かります」

「なにいってるんですか! 応援しますから、絶対にその彼とゴールインしてください!」

 嘘彼氏との別れをにおわせておきたかった。

でも、富田さんの激励に私は、「頑張ります」だなんてつい口走ってしまう。

救いようのない大馬鹿だ。

< 22 / 77 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop