君が笑ってくれるなら
9章/傍らに君ははいない
――お世話になります。宜しくお願いします

10月中旬、同時発売日当日、萬寿堂。

「空と君との間には」発売イベントを間近にし、結城は萬寿堂書店社長と販売スタッフへの挨拶をした。

「空を詠む」を手にとった沢山江梨子には、サッと手を差し出す。

『宜しくお願いします』無声の挨拶に、沢山江梨子は笑顔でこたえる。

いつもの耐え難い香水の匂いはしない。

先日、沢山の自宅で倒れ心臓病だと言ったのが余程、気になったのだろう――結城は思う。


「相手が結城くんで良かった」

握手した手を離そうとする結城の手を握りしめたまま、沢田は結城を見上げ、目を見つめる。


「貴方の話の続きがずっと楽しみだったし、執筆意欲が湧いたの」

沢山江梨子は手を握ったまま、さらに続ける。


「もし、同時連載がメタボのエロオヤジだったら書き続けられなかったわ」
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