君が笑ってくれるなら
沢山は、結城の手を握りしめたまま離そうとしない。

結城が沢山の握力に顔をしかめ、沢山は「あら」と悪気なく笑って手を離す。

「次のコラボ企画、何か聞いている?」

沢山が椅子に腰掛けながら訊ねる。

『いえ、何も』

結城の口元をじっと見つめ、沢山は結城の言葉を読み取り、ガックリ肩を落とす。

『すみません』

結城は「ごめんなさい」の手話をし、場を離れる。

「結城くん!?」

発売開始時間を間近にし、慌ただしく動く店員、段ボール箱を抱えた出版社の社員と共に、本を並べる。

「結城、いいから座ってろ」

「万萬先生、休んでいてください」

出版社社員からも本屋店員からも言われる。

『水嶋さん、俺は作家である前に、出版社社員です』

口は動くが声は無い。

ため息1つ吐き、結城は手を動かす。
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