君が笑ってくれるなら
かつては自分が親身に、面倒を観ていた後輩が昇進していくのを見るのは、どうなんだろうと思ってしまう。

後輩が、自分が手間暇掛けて作ったマニュアルを踏み台にして、新たなシステムを作り出し、自分を追い抜きかけ上っていくのを観ているのは、どんな気持ちなんだろうと思う。


「あの子はわたしが育てたのよ」

そう言って、鼻高々と笑って言いながら、実際はどんな気持ちなんだろう。

後輩の自慢をすることでしか、自分自身に陽を当てることができないのは虚しいなと、ふと考える。

お局様と陰で言われ、恐れられ煙たがれ、それでも長く会社に留まる田中さんの一瞬見せた明るい表情に、胸が疼いた。


「わたし、結城さんに会いたくて……」と言った時の結城さんの冷めた顔を思い出した。

今日のランチで、結城さんと交わした会話は、凄く大事な会話だったのではないか?

会話の1つ1つを丁寧に、思い返してみる。
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