君が笑ってくれるなら
8章/アフター6はあなたと
珍しく残業をしないで帰れる嬉しさは、何て言い表せばいいんだろう。

一口で言うなら「快感!」って所かなと思う。

机の上を片付け、更衣室で素早く着替えて、化粧を直す。

エレベーターで1階まで降りると、後ろ姿の結城さんが見えた。


「結城さーん」

呼びながら駆け寄ると、結城さんがゆっくり振り返る。


「今日はありがとうございました」


……どういたしまして


結城さんは立ち止まり、紺色のキャリーバックを押す手を離し、口を動かしながら手話でこたえる。

自慢ではないけれど、手話はさっぱりわからない。

結城さんが、ゆっくり動かす口の動きで判断する。


……残業はないのか?


「はい、今日は。結城さんは真っ直ぐ帰られるんですか?」


……いや、病院に寄って帰るが――方向が同じなら、乗せて行くけど
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