心の中を開く鍵
「申し訳ありません。居合わせた相談役顧問に論破されました」

本当に申し訳なさそうに呟く主任に目を丸くして、それから微笑んだ。

主任は人がいいなぁ。
普通なら、私の個人的お願いなんて一蹴されて然るべきでしょうに。

「大丈夫です。我が儘を申し上げてすみませんでした」

「いえ。山根さんの我が儘は可愛いものです。顧問の我が儘は目も当てられませんから……」

ボソボソと呟かれて思わず吹き出した。

秘書課は、エリート意識が高くて付き合いずらいと言われる事も多いけど、けっこうこんな感じでアットホームだったりする。

「では、いつから私はそちらにつけばよいでしょうか?」

「正確には明日からですが、今から顧問つきの唐沢さんに話を伺った方がいいでしょう。手は空いていますか?」

「問題ありません」

確か、唐沢さんは相談役顧問の古株の女性秘書だよね。

「では、紹介がてら同行します」

主任に言われて、一緒に秘書室を出た。

通常、個人秘書たちは重役の執務室の前にデスクを構えているけれど、相談役顧問みたいな重役クラスになると秘書は最低二人ついている。

第一秘書は執務室の前に座り、その他……と言ったら申し訳ないけれど、うちとは別の秘書室に通常詰めているのが普通。

唐沢さんは第二秘書だから……。
と、考えていたら、主任が黙って私を見下ろしていた。

「山根さん。羽賀部長の前で、高崎さんに名前で呼ばれましたか?」

「え? あ、まぁ……」

歩きながら難しい顔をする主任に、首を傾げる。

確かに、羽賀部長の前で翔梧に名前で呼ばれた……けど?

「うちの叔父、相談役顧問の事ですが、そういうことなら気を付けてください」

全く接点もない私が、相談役顧問に気を付けろ?

「どういう意味ですか?」

「うちの叔父、恋愛沙汰であれば面白おかしく首を突っ込んできますからね?」

「……ああ。はぁ」

ポカンと返事をして、眉を寄せた。
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