心の中を開く鍵
「私の場合、あともう数年したら30代だし。安心できるお見合い勧められるか、キャリア組になるかのどちらかでしょうねぇ」

そのうち、お節介な仲人好き重役から話が舞い込みそうだけれど、そこはそれ……ってやつだよね。

「山根さん。恋愛しないんですの?」

どこか不思議そうに首を傾げる観月さんに、私も同じように首を傾げて考えてみる。

「恋愛ねぇ。してもいいけど、しなくてもいいかな?」

「どうしてですか? 恋愛って楽しいと思いますが」

恋愛が楽しいか。

楽しいと思えば楽しいだろうけど、楽しかった思い出は少ないから……かもしれないな。
正直、どうでもいい部類になってしまったというか。

新人の頃はそれとなく誘われたこともあるけれど、そもそも当時は“恋愛拒否”していたから、誰ともどうにもならず、今まで来ているし。

「とにかく、これ仕上げてしまっていい?」

パソコンと書類を指差した私に、観月さんは顔を赤らめて頭を下げつつ離れていった。

まぁ、楽しい恋愛はいいよね。

するつもりがあれば……だけど。

書類を仕上げてチェックして、上の階の重役室に向かう。

長野室長の執務室までお持ちして、そのまま重役フロアの廊下を歩いていた時、応接室から出てきた人とのぶつかりそうになった。

「おお。すまんすまん。大丈夫か?」

おおらかにそう言ったのは、先程まで問題だった高野商材の営業部長。

「申し訳ありません。失礼いたしました」

さっと下がって一礼すると、もう一人応接室から出てきた。

来客が二人……?

高野商材の営業部長はワンマンという噂が高く、商用にも滅多に人を連れてこないのに……。

そう思って顔をあげ、それからお互いに固まった。
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