心の中を開く鍵
毛先がはねるような癖のある髪はあの頃と変わらない。
すっきりとした眉と、愛嬌を含んだ目元も変わらない。
だけど少年ぽい明るさはなくなって、細身のスーツに身を包み、すっかり大人の顔になった、その人。

「真由……?」

「おや。高崎さんは山根君と知り合いかね?」

彼の後ろから低い声が聞こえ、中から羽賀部長が出てきた。

慌ててまた一歩下がって、微笑みを貼り付けた。

「大学の先輩でした」

「ほう? 高崎さんも山根君と同じ大学だったのか。通りでその若さで課長職になるわけだ」

課長? あなたが課長?

高野商材で、20代で課長職?

瞬きをして彼を見ると、最初の驚きは過ぎ去り、どこか落ち着いた笑顔で羽賀部長を見ている高崎翔梧……。

こんなところで、元カレに会うとは思っても見なかった。

思ってもみなかったけど……。

「山根君。案内を頼めるかね?」

羽賀部長の言葉に一気に現実に戻されて、一瞬だけ迷う。

お見送り頼む、と言うことでしょうね。

……気分的には嫌だけど。職務上嫌だとは言えない。

微笑みのままで頷いた。

「承知いたしました。こちらです」

あくまでにこやかにエレベーターホールへ案内し、続いて到着したエレベーターに乗ると、当たり障りのない世間話で営業部長さんと会話する。
それから二人を玄関ホールの自動ドアまで誘導した。

「どうもありがとう」

「とんでもないです」

貼り付けた笑顔のまま、二人の背中が消えるまで一礼して。

その姿が見えなくなると、顔を上げた。

よし。いなくなった。

溜め息をついて、さっさと受付の前を通りすぎようとしたら……。

「山根さん」

低い声をかけられて硬直する。

振り返ると、自動ドアを戻ってくる翔梧の姿が見えた。
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