その手が暖かくて、優しくて
黒い生徒会
「あーあ、やっぱり…」

校舎の一階にある購買部にパンを買いに来て、葉山亜里沙は溜息をついた。
今日もコロッケパンやサンドイッチなど、美味しそうな人気のパンは残っていなかった。
とりあえず残っているパンから2つ選んで、それを買っていると、彼女の背後から遅れて、山下健介も購買部にやって来た。

「うわ!やっぱり残ってない…
俺、まだ見たことねえけど新商品で『フィッシュサンド』とかいう、白身魚フライをタルタルソースで挟んだパンがあるらしいぞ。」

健介が会計を済ませた亜里沙と入れ替わってパンを選びながら、そう言うと、

「何それ?めっちゃ美味しそう!」

亜里沙は再び大きな溜息をついた。

2人はこの春に3年生になったばかり。
年に4回あるクラス替えで亜里沙はDクラス
健介はEクラスになっていた。

ここ私立旭が丘高等学校では各学年がA~Eクラスに分かれており、
Aクラスは、家柄や成績も優秀な特待クラス
Bクラスは、スポーツで将来はプロやオリンピックを目指す優秀な生徒たち
Cクラスは、家柄はよくないが、そこそこ成績優秀者。
ここまでが、いわゆる上中流層。

Dクラスは、成績はそこそこだが問題のない生徒で…
ここまで書くと、おおよその見当がつくと思うが…
Eクラスは素行不良でアホという最下層のクラスだ。

この序列のとおりAクラスから10分ずつ、ずらして順番に昼休みとなることが校則として決まっており、亜里沙のDクラスや、まして健介のEクラスに至っては、上位クラスから30分遅れで昼休みとなるため、授業が終わってから急いで購買部へ走って行っても、目ぼしいパンは全て売り切れとなっているのが常だった。

「Aクラスのやつら、金持ちが多いんだから、購買部でパン買うなよな~」
健介はコッペパンにバターをたっぷり挟んだ『バターこっぺ』を2つ買って、微妙な満足感のなか毒づいた。

「いいじゃん!アタシはバターこっぺ好きだよ」
そう言う亜里沙に

「お前は『マヨコーンのせパン』もあるから、そんなこと言えるんだよ!バターこっぺ2つ食うと、2つ目の3口目くらいに絶対、味に飽きるんだ。」
それでも「バターこっぺ」に噛り付きながら健介が言った。

「しょうがないよ。うちらD、Eクラスだもん」
亜里沙は健介に少し『マヨコーンのせパン』を分けてあげようかな…と思いながら、
結局、食べてしまってから、健介にそう言った。

「しょうがないよ」
それは、「諦め」からくるセリフだった。


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