その手が暖かくて、優しくて
風紀委員で「カミソリ金森」と呼ばれている金森賢治は早朝からの委員会会議に出席していた。

議題は今日も「龍神会」の全貌を暴き、その組織の壊滅のためにどうするかといったものだった。
「いまだ構成員の数すら把握できていないが、Eクラスの佐藤が、この会のトップであることは間違いない。なんとか証拠を掴んで、佐藤を引っ張りたい。」委員長の清宮が毎度のように会議室にいるメンバーに向かって熱く語っていた。

(バカが…何もわかってない…)
金森は、そんな清宮の言葉を聞きながら心のなかで、そう呟いた。

間もなく1時限目の授業が始まる。その前に各教室では朝礼があるため、この朝会議は結論も出ないまま終了した。

会議室を出て、各教室へ戻ろうとする彼らの耳にも、その日、葉山亜里沙が生徒会長選挙に立候補したというニュースが届いた。

清宮は、それを聞いたとき、自分たちに対抗してくる存在を疎ましく思う反面、少しほっとしていた。

警察官僚を父親に持ち、幼い頃から彼は、潔癖すぎるほどだった。
心から正義を愛し、悪を憎んでいて、卑怯なことや汚いことなどは大嫌いだった。
だから、山下健介を卑怯な手段で陥れたとき、自分に無断で、しかも風紀委員を使って、それをやった綾小路に対して不満を持っていたし、後味の悪さを感じていたからだ。



その日の放課後、旭が丘高校正門前に亜里沙は立っていた。

「3年Dクラスの葉山亜里沙です。今回、生徒会長選挙に立候補しました。」

生徒用玄関から正門を抜けて家路に就こうとしている生徒たちに向かって、亜里沙が叫ぶ。

「いまの学校を変えたいと思っていたら…」

彼女の前を通る生徒たちのほとんどが、その前で足を止めた。

「アタシの味方になってください!」

足を止めた生徒たちは、彼女の言葉を聞いていた。
そこへ

「亜里沙~頑張ってね!アタシは絶対応援するよ」
瑞希が亜里沙の側に駆け寄ってきて、そう言った。

「ありがとう!瑞希!アタシ頑張る!」

そんな亜里沙たちを校舎の4階から勝弥と祐希も見ていた。

「勝弥さん、心配ですか?」

「………」

勝弥は黙って、亜里沙たちを見つめている。

「大丈夫ですって、生徒会の連中には、絶対、彼女に手出しさせません。」
祐希が勝弥に向かってそう言った。

勝弥の思いも同じだった。

(亜里沙、俺が必ず、お前を守る)


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