その手が暖かくて、優しくて
開戦
その夜、
綾小路華麻呂は帰宅後に食事とシャワーを浴びてまたもバスローブ姿だった。

亜里沙との選挙戦に勝つために早く何か手をうたなければ…、
彼の頭の中はそのことでいっぱいだった。

「こんなはずではなかった。」

今回も楽勝で生徒会長続投となると思っていた。

しかし現実は決して楽観できる状況ではない。
このままでは校内にくすぶる不満分子たちが、いっせいに亜里沙側につくかもしれない。
特に山下健介に対する強硬策で、あれが華麻呂の陰謀であったとする噂も校内で広まっている。
いまは立候補したばかりで、しかもDクラスの無名な生徒一人。
せいぜい親しい友人数人くらいしか味方はいないだろうが、この先どうなるかわからない。
だから早いうちにつぶさなければ…

「葉山亜里沙!俺は負けない!俺こそが支配者だ!」

思わず彼があげた自室内での大声は、近隣の住民にまで聞こえていた。


綾小路家の隣に住む橋本家でも、当然のように、それは聞こえており、

「ママ!今夜も、また裸の『へんたい』が出るかも!」

なぜか、ちょっとワクワクした感じで、そう言う五歳の女の子に母親が
「舞ちゃん…まさか、少し『楽しみ』になっているんじゃ…」



華麻呂は、いろいろ考えを巡らせてみたものの、いまのところ亜里沙に決定的なダメージを与えられるような手段は思いつかなかった。

しかし、それまで落ち着きなく室内をウロウロ歩き回っていた彼の足が止まった。
「やはり、それしかないな…」
彼の頭の中に、まだ漠然とではあるが思いついた「ある計画」に対して、そのとき華麻呂はその実行への決断をした。
綾小路家の跡継ぎとして、そして将来に持つ大きな野望のために、こんなところで、つまづくわけにはいかない。なんとしてでも勝たなければ…

彼は、またもカーテンを開け、バスローブを脱いだ。
今夜も室内では大きなガラスが鏡のようになって、全裸となった彼を映し出している。

「俺は勝つ!必ず勝つ!なぜなら俺こそが人のトップに立つべき指導者であり支配者となる選ばれた人間なのだ」

こうして今夜も恒例の全裸ダンスが始まった。

「わはははは!待っていろ!愚民ども!俺が愚かなお前たちを導いてやる真の支配者、綾小路華麻呂だ!わはははは!」





その頃、綾小路家の隣に住む橋本家では

「ママ!見て!『へんたい』が出たよ~」

嬉しそうに指さしながら話す五歳の女の子に母親が
「舞ちゃん!見ちゃ駄目!」


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