その手が暖かくて、優しくて
翌朝、その日も亜里沙は早めに登校しようと学校に向かって歩いていた。
空は青く晴れ渡っていた。そろそろ日中の気温も高くなってきていて、そうして歩いていると全身にうっすらと汗が出てくる。
こんなふうに、あっという間に季節は巡り、うっとうしい梅雨が過ぎ、夏が来て、秋が来て、寒い冬が来る。その先は…

いま3年生である亜里沙は卒業を迎えるのだ。そう考えると3年間の高校生活なんて、あっという間だ。改めて彼女は思い切って立候補して良かったと考えていた。
昨日、正門で立候補宣言をしたとき、多くの生徒たちが、そんな亜里沙に「がんばれ」と声をかけてくれて、それが彼女にはとても嬉しかった。

「よし!今日もがんばろ!」
ぎゅっと拳を握って、亜里沙は自分自身に、そう言った。

そこへ
「おはよう!亜里沙!」彼女の背後から瑞希が声をかけてきた。

「おはよう瑞希!瑞希も早いんだねー」
そう答える亜里沙に瑞希は

「何、のんきなこと言ってんの?投票日まではあと10日しかないんだから、今が大事なんだよ」

「うん。そうだね。ありがとう瑞希!」

2人は並んで学校までの道を歩いていた。歩道を歩く2人の横を数台の車が彼女たちを追い越して通りすぎていく。

「ところで亜里沙、あさっての全体演説で話す内容だけど、ちゃんと考えてんの?」

脇の車道を通る車が途絶えて、静かになったとき瑞希が亜里沙に尋ねた。

「え!何それ?」

「何言ってんの!ちゃんと選挙スケジュール見た?会長立候補者は全校生徒の前で演説するんだよ!」

投票日のちょうど1週間前に旭が丘高校の体育館では、生徒会長選挙の立候補者が全校生徒に演説をするイベントがある。瑞希は呆れた。

「まじで!どうしよ!アタシそういうの苦手だよ!」

「とにかく、話すことを、ちゃんと考えて原稿にして準備しとかないと!」

「困ったなぁ~瑞希~手伝ってよ~」

「しょうがないなぁ~じゃあ放課後に一緒に考えよ!とにかく、もう日がないよ」

「うん!やっぱり瑞希は頼りになるなぁ…」

「調子いいこと言ってんじゃないの!じゃあ放課後ね。授業終わったら呼びに行くから」

「ありがとう瑞希!」

そんなことを話しているうちに2人は学校に到着した。

瑞希はそのまま玄関へと向かい、亜里沙は正門の脇に自分のカバンを置くと、
すう~っと深呼吸をしてから、大きな声で

「おはようございます!登校中のみなさん!生徒会長に立候補した葉山亜里沙です!」




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