その手が暖かくて、優しくて
旭が丘高校から5kmほど離れた国道沿いに
かって、大型のパチンコ店が閉店し、その広い跡地が空き地のまま放置されている場所があった。

そこに100台以上の単車や自動車、そして100人を超える暴走族が集まっていた。
この地域の最大の族である「NORTHERN-WOLF」である。
彼らは、このチームのNo2であり、特攻隊長と呼ばれている柏木祐希によって集められた。

付近の住民からの通報により、その周囲を囲んだパトカーと警察官から
「速やかに解散しなさい」といった警告がスピーカーから告げられるなか

その殺気立った集団の先頭で、祐希の声が響く
「いいか、チームの誇りにかけて必ず、葉山亜里沙を見つけ出し、無事に保護しろ!わかったな!」

暴走族「NORTHERN-WOLF」と「龍神会」
2つの組織を合わせると200人以上もの人間が亜里沙救出に動き始めた。
それは、亜里沙が拉致されて1時間も経たないうちのことだった。

このことは綾小路も、ましてや彼に命じられて拉致を実行した不良たちにとっても予想すらしてなかったことだった。



「まだ、亜里沙は見つかんねぇのか?」祐希からの電話に出た真鍋勝弥はスマホを耳に当てながら、行くあても定まらないままに走り回っていた。

(亜里沙…頼む無事でいてくれ…必ず俺が助けに行くから)



ここは、廃業した金属加工工場跡。現在、この土地は綾小路財閥で所有しており、その建物内が亜里沙の監禁場所として使われていた。
今や稼働していない工場内には、少しの廃材と赤錆に包まれ動くことはないであろうプレス機械が一台あるだけで、油のにおいが残る建物内はガランとしていた。

今回の拉致実行犯のリーダー日下光也は19歳。高校を中退後、仕事も長続きせず、ときどき後輩などを誘っては小さな悪事を働いたり、自分より弱いやつを見つけては、近づいて行って舎弟のように扱ったりといった「小さい男」だった。
今回も2日で1万円もらえるといった理由だけで、年下の華麻呂の手下として、仲間10人でこの拉致を実行した。
この小悪党は椅子に亜里沙を縛り付け、「なにやら大きな悪いことでも、しでかしちゃった感」に浸っていた。

「ここ、どこよ?なんで、こんなことするの!」そう言う亜里沙に、

「静かにしてろ!大声出すんなら、痛い目にあってもらうぞ」
入口や外の見張りをしているもの以外、亜里沙の周りには5人の男たちが取り囲んでいた。
その恐怖に亜里沙は口をつぐんだ。



「そうか。わかった。後はこちらから指示するまで、そのまま監禁しておけ。いいな」

小悪党たちから「亜里沙の拉致監禁」が成功したことを聞いた華麻呂は満足気に口元を緩めた。その横顔は「あーこいつ悪いやっちゃなー」という顔だった。
時刻はすでに日付の変わる時間になっており、亜里沙が拉致されてから5時間が経過しようとしていた。


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