その手が暖かくて、優しくて
生徒会の内側
亜里沙と勝弥の二人と同じく、夕暮れの下を流れる川を複雑な気持で眺めている者がいた。
風紀委員トップの清宮公正である。
彼は幼いころからルールを守ることや正義といったものに固執していた。
公正がまだ小学生のころ、学校遠足で、彼のリュックのなかにガムが一枚入っていたことがあった。
たまたま、その3日前に家族でピクニックに行ったときに紛れこんでいて、それに気がつかなかっただけだったが、それを見つけた彼は愕然とした。
ガムは学校遠足のしおりに「持って行ってはいけないもの」として、はっきりと書かれてあったし、300円までと言われていたおやつをぴったり300円分買って持っていた彼にとって、そのガム一枚分の金額だけ制限をオーバーしてしまったことになる。

つまり2つの違反を犯してしまったのだ。

遠足から帰った彼は自らを罰するべく、進んで物置に入り、3日間の断食の末、原稿用紙100枚に及ぶ反省文を書き上げた。
そんな彼にとって、山下健介の件は汚点として許しがたいことだった。
明らかな違法逮捕だ。しかも綾小路は事前に彼に相談することもなく、勝手に風紀委員を使って不正行為を実行に移した。
そこへ、今回は「龍神会」への徹底取締り。
証拠もないのに疑わしいだけで逮捕するなんて法治国家にあるまじき行為だ。
確かに龍神会が葉山亜里沙をバックアップしていることが明白な状態で、この選挙に負けるようなことがあれば、龍神会をますます助長させるようなものであり、風紀委員として防がなくてはいけない。
しかし、「やり方が間違ってる」と公正は考えていた。
それに龍神会の構成員に一定の監視をつけ、泳がせることで組織の黒幕をあぶり出し、その全容を解明した上で一網打尽にしようと、これまで長期に渡って苦労してきたことが、全て無駄になってしまう。

だから、今回、彼は綾小路に反論したのに、全く相手にもされなかったことに彼は憤りを感じていた。

「くそっ!」
川の流れを眺めながら、彼は沸き上がってきた怒りの感情を吐き出すように、そう呟いた。

彼のなかにある理想の正義と、それを踏みにじる現実の狭間で彼の心のなかは揺れていた。
彼にとって綾小路は、もはや「信用できない男」となっていたからだ。

また、彼には以前から綾小路華麻呂に対するひとつの「疑惑」があった。まだ、証拠はつかんでいないが、その「疑惑」とは清廉潔白な公正にとって、絶対許されない「不正」であった。

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