その手が暖かくて、優しくて
ぷるる
その日、朝から金田金好は落ち着かなかった。
今日、放課後には、あの瑞希と初デートだ。
同じくその日は裁判に綾小路がかけられる日でもあったが、これに備えて、完璧な帳簿を完成させていた金田には、それに乗り切れる自信があったし、あの「ぷるる」そっくりな瑞希とのデートである。

初めて瑞希を校内で見かけ、「うわ!ぷるるや!」と思わず叫んでしまった日から、思い焦がれ、手紙を送り、その返事を待ち続けた長い日々。

その全てが今日、報われる。
金田は喜びに踊りだしたくなる気持ちを必死で抑えて、学校に向かった。
…が、時刻はまだ、朝5時だった。

結局、駅で始発電車を待って、それに乗り、6時前には学校に到着してしまった金田は、そこで生徒用玄関の前で1時間以上待つこととなる。



一方、瑞希も別の意味で、その日は緊張していた。この作戦に全てがかかっている。
今日の放課後、17時ちょうどに校内裁判が開廷される。それまでに、証拠を掴まなくてはいけない。
瑞希の脳裏にふてぶてしく笑う綾小路華麻呂の顔が浮かんだ。

「見てろ!絶対に、きゃんと言わせてやる!」



授業が終わって、待ちに待った放課後となり、金田は学校近くの私鉄駅前にあるファストフード店に向かった。

15時ちょうどに、そこで瑞希と待ち合わせをしていたからである。
店に到着した金田が客席を見渡すと、窓際の席に瑞希がいた。
飲み物の入ったカップを右手に持ち、そこに刺されたストローに口をつけながら、窓の外を見ている。
その横顔見て。金田は
「かわいい!やっぱり『ぷるる』にそっくりだ!」と改めて思った。

しかも、
そんな彼女はいま彼を待っているのだ。
喜びと、これから始まるデートへの期待で金田は興奮した。
客席の入口に立つ金田を見つけた瑞希は「ここだよ」とでも言うように大きく手を振った。
金田は緊張でギクシャクした歩きをしながら瑞希の席まで行き。
軽く右手を上げて「やあ」とだけ言った。

「金田君、飲み物とか、いいの?」

「あ…うん。大丈夫。」

「そっか。とりあえず座んなよ。」

「あ…ああ!」
相変わらずギクシャクした様子で金田は瑞希と向かい合って座った。


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