イジワル同居人は御曹司!?
3. 兄と歩み寄れ
「メガネも考えたわね」

歩は渋い顔をして腕を組む。

週末に奏さんと雇用兼賃貸契約が纏まったため、週明け早々歩に印鑑をもらうために会社近くの某コーヒーショップでランチする。

「私としても悪くない条件だとおもったんだけど。食事の材料費も負担してくれるし」

歩はクリームがたっぷり乗っかった何とかフラペチーノをストローでお上品に一口飲む。

「兄は仕事が忙しくて家の事もままならないのよ。それで家政婦代わりに紗英を使おうって魂胆じゃない」

「今の私は例え家政婦代わりだとしても住む家があるってだけで幸せ」

私は遠い目で窓越しに秋の空を見つめる。

自分でも幸せのハードルがかなり下がったと思う。

「で、兄との同居生活は順調なの?」歩は小首を傾げて尋ねる。

「そうねぇ…」

私は遠くを見つめながら今週末に想いを馳せた―――


奏さんの同意もいただき、一先ず住居についての心配はなくなった。

晴れた土曜日の午前中、私はベランダで洗濯物を干す。

この状況では男物の下着を洗濯するのもなんて事ない。

洗濯が終わると次は掃除だ。

掃除機をかけた後に、我が社のヒット商品である「お手軽床拭きシート」で床を磨いていると、奏さんが姿を現した。

「おはようございます」

「…おはよう」

黒のVネックTシャツにデニムを履いたラフな格好がなかなか新鮮である。

頭に寝ぐせついてるし。

奏さんはそのままリビングのソファーにドサリと腰を下ろす。
< 36 / 328 >

この作品をシェア

pagetop