イジワル同居人は御曹司!?
警察署からの帰り道。

私は奏さんの後ろをピッタリついて歩く。

本当はまだ恐ろしいので、もう少し手を握っててほしいくらいだ。

なんて甘えたことを、やっぱり言える訳ないんだけど。

「あの…」

声を掛けると奏さんはこちらへ振り向いた。

「ありがとうございました。それと迷惑かけてごめんなさい」

私はペコリと頭を下げる。

「そのスカートは今後使用禁止だな」

奏さんは咎めるようにスッと目を細めた。

「ああ、もう着ません。似合わないし」私は肩を竦める。

「別に、似合わなくもないというか寧ろなかなかそれはそれで…」

奏さんが何かゴニョゴニョ言ってるけど、よく聞こえない。

「何ですか?」

聞き返すと奏さんは答える代わりに私の左手をギュッと握る。

「早く帰ろう、お腹がすいた」

私はビックリして思わず奏さんの顔を見上げる。

「カモフラージュだ」

「ああ、何だ。そういうことですか」

再び左手が暖かい温もりに包まれて、思わず頬が緩んでしまう。

「今日のビーフシチューはなかなか美味しく出来たんですよ」

一人だと恐ろしくて仕方なかったこの道も二人で歩けば怖くない。

私は指を絡ませてギュッと奏さんの手を握り返した。

今日は散々な一日だったけど、家路へ向かう私の足取りは軽い。
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