キラキラ想い出マーブルチョコレート


「なんていうかさ。言い出し難かったのよ」
「何が?」

未だ不貞腐れたように涼太が訊き返す。

「紗南は、健ちゃんのことを想ってずっと一人なわけでしょ。なのに、私に彼ができて調子に乗ったような話なんてできないじゃない。だから、独り身っていうことに……」

語尾が尻切れトンボになりながらも、私は涼太に向かってそう説明した。
説明を聞いた涼太といえば、椅子にふんぞり返るように座って腕を組むと深い溜息を零したあとに目を瞑ってしまった。
ついでに言えば、綺麗な形をした唇もきゅっと閉じて真一文字になっている。

これは……マズイかも。

ちょっといい事したのよ、なんて浮かれて。
しかも、ワトソン君なんて得意げに人差し指なんか立てている場合じゃなかった。
寒い季節にやってくる、あのキラキラと暖かなクリスマスを前に、本当に独り身になってしまう恐れが……。

「りょ、涼太……?」

目を瞑ってしまった涼太のご機嫌を伺うように、私は猫なで声で名前を呼ぶ。
けど、その目はピクリとも動かない。

ま、マズイよ。
本当にまずいって。
紗南に春が来て、私に極寒の冬?

いやいやいやっ。
冗談じゃない。

だって、私涼太のことすっごく好きだもん。
冷たそうに見えるしゅっとした鋭い眼が、笑った時にふわって緩んだら凄く幸せな気持ちになるし。
軽薄そうな薄い唇が、私の名前を呼んだあとに暖かさを伝えてくれる瞬間だって好き。
少し痩せすぎな感じの身体だって、筋肉はしっかりついていて抱きしめられると凄く安心する。
ほかにもいっぱいいっぱい、言葉にするのは難しいけど、私は涼太の全部が好きだから。

だからイヤだよ。
怒んないでよ。
笑ってよ。

冷や汗交じりの涙交じり。
得意になっていたさっきまでの自分を蹴り飛ばしたい。

ちゃんと順を追って説明すればよかった。
そしたら涼太の気分を悪くすることも、こんな風に怒らせることもなかったのに。

後悔の渦に飲み込まれそうになりながら、私はもう一度涼太の名前を呼んだ。

「涼太?」

私の声に、しゅっとした鋭い目がパッと開く。
それと同時に涼太がスッと立ち上がったかと思うと、徐に踵を返してしまった。
涼太が私に背を向けて、何の躊躇いもなく出口を目指していなくなろうとしている。

えっ……ちょっ、待って……。

伸ばした手は届くこともなく、怒った背中が遠ざかって行く。

置いて……いかれた……。

周囲のざわめきも聞こえなくなるくらい、耳の置くがキーンッと嫌な音を立てている。

警告音?
心臓辺りが冷えていき、頭の中は真っ白だ。

心細さに泣き出してしまいそうになったそのすぐあとには、深く考えることなくバッグを引っつかんで背中を追っていた。

涼太っ。
待って。
待ってよ。

バタバタとなりふり構わず涼太の背中を追っかけて行ったら、路地裏の途中で涼太が足を止めた。
その背中に声をかける。

「涼太」

恐る恐る近づいて、もう一度小さな声で涼太を呼んだ。

「あの……。ごめんね。なんて言うか。紗南のこと考えたら、浮かれてもいられないって思って。だけど私、涼太が大事だよ。紗南には言えなくて嘘ついちゃったけど、ちゃんと大事だよ。だって涼太がいなかったら、毎日がつまらないもん。涼太と会えるこの時間が大切だもん。涼太がいなくなったら私……。ねぇ、涼太……」

私の涙声にゆっくりと涼太が振り返る。
その顔に縋りつくような目を向けると、何故だか満面の笑み。
怒っていると思っていた涼太がめちゃめちゃ笑顔だったものだから、泣きそうになっていた私の感情がついていかない。

「どんだけ俺のこと好きなんだよ」
「え……?」
「不安そうな顔して追っかけてきたから、すげー嬉しくなった」

にんまり笑ったかと思うと、ぐっと手を引き私を抱きしめる。
安心できる胸の中におさまりながら浮かぶのは疑問。

もしかして、わざと?

そう思ったら一瞬カチンときたけど、私の耳元に埋めた顔から温かな呼吸が伝わってきて、怒りなんてどうでもよくなっちゃった。
寧ろ、あなた子供ですか? なんて、私を試す涼太が愛らしくさえ感じてしまうのだからしょうもない。

「合コン。行くなよ」
「行かないよ」

「紗南ちゃんと健ちゃん。うまくいくといいな」
「うん」

ああ、悔しいけれど、結局好きに勝てるものはないのよね。
私の方が涼太のことをずっとずっと好きだから。



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