久遠 ~十年越しの恋~
手紙
久遠



序章「手紙」



お元気ですか。

変わりはございませんか。

最近寒くなってきましたね。

いよいよ晩秋の季節が過ぎ、冬が訪れることになれそうです。

僕の住む町でもちらほらとマフラーやコートを身にする人たちが増えてきました。

そちらの方は寒さもこちらと段違いなんでしょうね。

風邪を引かないように気を付けてください。

そういえば今度の成人式はそちらに伺おうと思ってます。

よろしければ是非会いたいです。

久しぶりに話せる日のことを楽しみにしています。

ではまた。

拓也より。


「ふぅ…」

筆を机に置き、一息つくと同時にすっかり温くなってしまったコーヒーをすする。

一人暮らしの部屋のなかでひっそりと物書きに励む俺の姿といったらなんと滑稽なのだろう。

しかも今時、文通ときたもんだ。

こんなことやる奴なんざまぁ、俺ぐらいのものだろう。

しかもその相手ってのが家族でも友達でも、もちろん恋人でもない。

ただの…なんだろう。

わかんねえや。

とにかく俺と手紙の宛先人とは特別な間柄はなんもないってわけだ。

なのにこうも律儀に手紙を送り続ける俺がいた。

メルアドも電話番号も知っている。

なのに俺はなぜか手紙という選択肢をとった。

月に一度だけ送るこの手紙だけが俺たちの連絡手段。

深い話なんて特にはしない。

些細な連絡事項のみ。

それだけだ。

けど、それだけで俺は十分だった。

上京して二年。

今も俺はあのときと変わらずにいる。

変わらずに想う。

たぶん、それはこれからも変わらない。

いつからこの気持ちを意識するようになったのだろう。

ふと、そんなことを考え、後ろに後ろに記憶を振り返る。

高校…中学。

そうだ。

あのときからだ。

中学二年生。

11月末。

丁度今ぐらいの季節。

白く寒い冬の日のことだった。

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