鉢植右から3番目


 暗い影のなくなった笑顔で彼女は笑っていた。それが安心の元だと判っていた。

 ・・・ああ、そうか。ちゃんと彼女を愛して、大切にしてくれる男とめぐり合ったんだな、って。

 振られたばかりだというのに、俺は嬉しくて笑う。

「そうね」

 彼女も頷く。

「判った。じゃあ諦めるよ。でも今日は、会えてよかった」

 ふ、と息が漏れる。・・・会えて、よかった。


 彼女は見送ってくれるようだった。

 だから俺は重い鞄を持ち直して駅に向かった。

 これから帰社して、それから書類の作り直しできっと終電だろう。だけど何だか爽やかな気分になっていた。

 あのムカつく課長の顔を見ても、ちゃんとした顔で報告出来そうだ。これも全部、兼田の――――――あ、結婚したんだっけ、何て名前って言ってたかな。・・・ま、いっか。これも全部、彼女のお陰だ。

 電車に乗ったときに判った。

 俺が気に入っていたのは、これだって。

 彼女は不倫をしている時も、それがバレた時も、一切の言い訳をしなかった。すくなくとも俺にはしなかった。

 それって結構凄いことなんじゃないかな。

 心が弱る恋をしていて、人にそれを零さないなんて・・・俺にはきっと出来ないだろう。

 やっと薄暗くなってきた外を窓から見詰める。



 会えて良かった―――――――本当に。




 おまけ、終わり。
< 143 / 143 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:88

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

新・詩と写真1「囁きがきこえる」
明紫/著

総文字数/1,557

詩・短歌・俳句・川柳14ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
 久しぶりの詩と写真です  今回写真を提供してくださったのはゆきあ(clover_yuk)さん  言葉のどれかひとつでも  こころの隙間まで届きますように  2021.12 明紫×ゆきあ
山神様にお願い
明紫/著

総文字数/251,218

恋愛(その他)431ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
 大学4回生の私、鹿倉ひばり、アルバイトを探してます。  ただし、1年も働けない。そのために中々雇ってくれる会社が見付からない。  だけど駅前の、薄暗くて引っ込んだ場所にある小さな居酒屋「山神」  ここでオッケーの返事を貰った!    意気揚々と入り込んだ私を受け入れてくれたのはちょっとばかり変な店。  獣達に囲まれた私の素敵な8ヶ月が、今、始まる。 「お願いしてみなよ、叶うかもよ」 「そんな軽い感じなんですか?」 「いいからいいから、ホラ」  両手をパンとあわせて、頭を下げて、大きな声で―――――――― 「山神様、お願いします!」  2013年7月2日~8月22日 明紫 再掲載 2019年2月17日   レビューを頂きました。身に余る光栄、感謝します! bikke様 うちわ様 来海シスコ様 葉月紗羅様
詩と写真4「something blue」
明紫/著

総文字数/1,081

実用・エッセイ(その他)9ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
 幾重の青の向こうから  君が  僕の  心に落ちてきた  写真:fumi  言葉:明紫  2018年1月12日 レビューを頂きました、本当にありがとうございます。 高山様 葉月紗羅様

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop