…だから、キミを追いかけて
神無月となった10月の第1月曜日から、私は仕事へ行き始めた。

自宅から車で30分の通勤距離。勤め先は、有料老人ホームの調理場。

薦めてくれたのは佳奈さんで、運動会の弁当作りを手伝った際に、私の魚捌きの良さを買ってくれていた。


「ユウカちゃんみたいな若い子で、魚の捌ける人が欲しい…って聞いとったんよ。私の元職場の人なんやけどね……」

看護師をしていた佳奈さんは、そう言って口を利いてくれた。
おかげで、私は就活もしないうちにあっさり仕事にありつき、新しい職場で働いている。

1週間のうち4〜5日程度のパート勤務だけど、それなりに時給はいい。
料理のことも習えるし、花嫁修行みたいな感じもする。


この間、役場の出張所で出会った波留とは、あれから顔を合わせることもなく、急に始めた仕事に慣れるのが精一杯な毎日の中、彼からの連絡も入ってこなかった。

出会った縁の深さが浅かっただけなのだろうか……と諦めかけていた頃だった。
澄良の店で、波留が転勤するかもしれない……と聞かされた。


「……転勤?…そんなの、消防関係にもあんの……⁉︎」

不思議に思って尋ねた。

「あるらしいよ。波留は職員になって8年目やし、そろそろ市の消防署に異動が決まりそうなんやって…」

試作品のケーキをバルコニーのテーブルに並べながら、澄良はのんびりとした口調で説明をした。

「異動に際しては、難しい試験みたいのがあって、それにパスすれば…の話らしいんやけど……」

試験への登竜門として、県庁所在地に在る、消防訓練学校へ通わないといけないそうだ。

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