時ノ探偵此処ニ在リ
扉を開いた少年はさも驚きました。と私は思っているのですが…。

まぁこの探偵事務所に訪れたものは殆どがボーッと突っ立っているものですからネ。

何故驚いているかとわかるか、ですって?ソリャア、アナタ…

扉を開いた先が玄関ではなく書斎だったからですヨ。

少年はその書斎で一人の男性を見つけまして。

その男性、赤銅(あかがね)色の肩まで伸ばした髪に、黒装束が初見の印象でして。真っ黒な執事服を纏(まと)っていたわけでございます。

始めは背を向けていたこの男性、背はそこまで高くないものの、スマートな体躯にスラリと伸びた両の足。少年はその姿を暫く眺めていたのでした。

「退屈な天気ですネェ」

男性は唐突にそう話します。

「そう思いませンか?」

よく通る澄んだボーイソプラノで話す男性が、ようやく少年へ振り返ったのでした。

やっと見えたその顔は、空を宿す瞳に細い眉。唇は桃色で微かな笑みを浮かべておりまして。端麗といわずに何と言いましょう。

女性のようなその男、いえ、少年にはその判断が出来る材料がなかったのも確かです。何故男性と思ったのかとさえ思う容姿でありました。

その唇がそっと動き、言葉を紡ぎ出しました。それはこんな言葉でして。

「ようこそ、時間の探偵事務所へ」
男性(ということにしておきましょう)は微笑みながら言いました。お決まり文句のようなその言葉、しっかと少年には聞こえたはずでした。

しかし少年は困ったように言葉を探していました。まるで言葉を無くしたようでもありました。

「何がなンだかわからない。という顔をしていらっしゃる。さてはアナタ…」


『迷われましたネ?』

さてさて、時間捜しの事件が起こったようでした。
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