君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)

割れるような音の中、1階への階段を駆けおりた。


「大丈夫ですか」


声をかけると、先に降りてきていた小出さんが、誤作動っぽい、と耳をふさぎながら言う。

誰かが、ストロボだ、と怒鳴った。
何台もセットしたストロボの熱で、火災報知器が作動したのだ。

私は管理室へ行き、壁に貼ってある管理人の緊急連絡先へ電話した。
ベルの解除法を聞いて、ようやく音をとめる。

スタジオに戻ると、小出さんが消防署からの電話に応対していた。


「申し訳ありませんでした」


小出さんに、騒動をお詫びする。


「いいよいいよ、何もなかったんだし」


クルーのひとりが、警報装置を切っとくの忘れてました、と頭をかいた。

私の責任だ。
あらかじめ切っておく必要があることを、私が把握してなきゃいけなかった。

現場のすべてを管理するのが、私の仕事なのに。
このスタジオが、初めてなわけでもないのに。

なんの被害もない、ただの騒動だったとはいえ、情けなくて、落ちこむ。

後に続いて降りてきていた三ツ谷くんが、眼鏡を外してハンカチで拭いていた。
なぜか、気恥ずかしくなる。

あれはたぶん、一緒に転んだ時、私のメイクがついたんだ。
何か固いものに当たった気がするから。

眼鏡をかけなおした彼が、私の視線に気づいて、ちょっと気まずそうに笑う。
そんな顔されると、腹も立てづらい。


三ツ谷くんは、もしかしたら、本当に私を気に入ってくれているんだろう。
嫌がらせとか、からかいじゃなくて。

それはそれで、情けない。
私の仕事人としての魅力より、女としての匂いが勝ったってことだ。

私の仕事ぶりって。
そんなもんなんだろうか。


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