妬こうよ、そこはさ。
彼女はさっそく取り組むらしい。


とりあえず共同作業してみたら何か変わるんじゃないの、という理由から、その日の夕飯は、


「一緒に、作ろ?」


なんて手を握られ、本人に自覚なしの可愛いお誘いをされた。


ちなみに奥さん本人は至って冷静だ。


手を握ったのは、ぼうっとしていた俺の気を引くためで、とち狂ったとか、急に幼児退行したとかじゃない。


でも俺は、内心、全然冷静じゃなかった。


やばい。奥さん可愛い。

もう、すげー可愛い。


……ああ、どうしようか。今日は歴史的大事件が多発している。


約束通り、頑張って口を開く。


「今の可愛かった」


強張る舌を懸命に動かしたのに、奥さんは素っ気ない。


「それはどうも」

「……俺に対する感想はないの」

「手が温かいなと思った」

「…………」


俺には難易度の高い要求をする割りに、自分は全くもってそういう様子を見せてくれないとかフェアじゃない。


なあ奥さん、ずるいよ。


結構頑張って言ってる俺ばかりが損をしている気分になってくる。


いや、多分冷静なんだろうとは思ってたけれども。

初めのうちは絶対淡々としてるんだろうとは思っていたけれども。


どう考えても、今のはもう少し、別のことを言うべき場面だっただろ。


消化不良な俺は、交わしたばかりの約束を思い出しながら、いささか膨れた。


——なあ、奥さん。


ちょっともう一回ヤキモチ妬きませんか。
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